『坂口くんが好きです。』制作意図の解説

昨年末に「坂口くんが好きです。」というタイトルの作品を制作しました。

元は音声作品として作ったもので、YouTubeとニコニコで見る(聞く?)ことができます。

また、文字だけでも成り立つ作品のため「カクヨム」と「小説家になろう」にも掲載しています。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888048134

https://ncode.syosetu.com/n5782ff/

作者が作品にコメントを加えるのは無粋な気もしますが、それはそれで面白いかと思いこのような形で公開してみることにします。

よろしければ同作品の制作裏話もご覧ください。

作品のネタバレを多分に含みます。
作品をご覧になった後でお読みいただければと思います。

タイトル

完全に語呂でタイトル付けました。
タイトルと内容はほぼ同時に考えたので、タイトルありきの内容です。

なぜ他の名前でなく坂口くんなのかというと、タイトル思い付いた時期に坂口健太郎が話題だったのですよね。
映画部の後輩が坂口健太郎に似てると言われたとかでツイートをし、その文面が周りに弄られる形で坂口健太郎という名前が飛び交ってました。

で、「あ、坂口くんが好きですって語呂良い感じじゃん」ということでこのタイトルになりました。

意識したもの

チクチク感

2017年の年末に行われた部内コンペに出品された、横山裕香監督の「雨の夜にも絶え間なくひかる」という作品があります。

ざっくり言うと恋愛のゴタゴタが起こる作品なのですが、そのドロドロ感が生々しいと言うか、見ていてチクチクするのですよね。

ドロドロ感は諸説あります。
ある人は「ドロドロ感など無い。あれはキラキラした綺麗な作品だ」と評していました。

その見ていてチクチクする感じを出せたら良いなと思いながら書きました。
そのためには正直な感じ(本当に正直どうかは置いといて、感じ)で書いたら良いだろうと考えました。

個人的にはこの試みは概ね成功しているのですがいかがでしょう?
渡辺自身はこの文章が読み上げられているのを聞くと「ウッ」となるのであんまり聞きたくないです。
書いてる最中も「これ書きたくねーな」と度々思ってましたし、録音に立ち会ったり編集中に繰り返し聞いたりも大変恥ずかしかったです。

これは元の目標に照らし合わせると概ね成功なのですが、他の方的にはどうなのでしょう?

音声作品

映像でなく音声作品という形式にしたのは、同じく2017年の年末の中村美紅監督の「沈む」という作品を受けてです。

沈む、渡辺も出演したのでなんか機会あったら良かったら聞いて下さい。

映画部なので映画(映像作品)を作るのが主なのですが、2017年は音声作品だったりドキュメンタリーだったりと様々なジャンルの作品が集まっていました。

2018年はそういう変わり種作品があるというのは聞いておらず、後輩達に来年以降 「こういう形式でも良いんだよ」と示すためにあった方が良いかなという判断です。

なので別に音声作品が作りたかったわけではないですね。渡辺は部活想いですね。

もし映像作品として作ろうと思ってたら構成も内容も今の形にはなってなかったと思います。

配役

脚本の時

渡辺は脚本書く時に当て書き(この役はこの人にしよう!と意識して書く)することもあります。
「Several Miracle」の晃佑とほのかとか、「君が振り返る。とても眩しいと思った。」の本田なんかはそうです。
元の想定と違う配役になったけど当て書きしてたのを含めると 「さよなら、ガール・フレンズ」のリョウタや「君が振り返る。とても眩しいと思った。」 の加藤もそうです。

ただ今回は完全に配役のことは考えずに書きました。

声掛けた時

制作裏話の方で書きましたが、作ろうと決めた時に4人に声を掛けました。

この声を掛けた時点ではまだどなたにどこを読んでもらおうかは決めていませんでした。
声が良い+他の人の声とのバランスで選びました。

パート分けは、4人とも確定してから内容なり順番なりで決めようという感じです。

パート分け

シーン1 横山さん

横山さんずっと何かで使いたかったのですよね。

2018年の夏に渡辺は監督でないけど関わっている作品で出演していただいた(出演者選びの時にだいぶ推した)ので割と満足していたのですけど、やっぱり自分が監督する作品で出ていただきたいなというのもありました。

1学年上でこの機会逃すと卒業してしまう、音声だけなら多少頼みやすいなというのがありお声掛けしました。

ちなみにこれで「自分の作品で使いたい!」と思った先輩は卒業前に全員使えました。

パートは、前述の作品で幼めの役柄を演じていたイメージと、若干舌足らずな話し方から小学生の設定であるシーン1にしました。

シーン2 中村さん

単体では別にそうでもないですが、4人の中で言えば幼い声枠の2人目としてです。

内容的には馬鹿っぽさとか生意気っぽさが欲しく、とはいえそういう声のイメージで思いつく人もいなかったので、器用に演じてくれるだろうでの配役です。
録音前に「ウザく読んで欲しい」とオーダーしました。

結果「思ってたのとは違ったけど超良い」という感じです。
録音の時に本人にも言った気がします。

シーン3 白井さん

パート分け決めた段階では白井さんではなかったのですけども…。

元の方をここに置いた理由はベストオブ落ち着いた声だと思ってのことです。

白井さんがここなのは単純に置き替わっただけです。そもそも声をあまり知らなかったのですよね。
多少お話したことはあったのですが、事務連絡が主でどんな声してたかほとんど覚えてませんでした。

結果的にここもとてもハマっていて良かったです。
当初の狙いの「落ち着いた声」にも当てはまっていたと思います。

シーン4 吉田さん

最後ビシッと締めてくれ!役です。

シーン1とシーン3なんかは必然的に悲しい雰囲気になってしまい、かと言って作品全体の雰囲気は別に悲しくしたいわけではないので、最後ぐらいはキチッとしたいなと思いました。

演劇経験が関係あるのかないのか分かりませんが、しっかりした発声で読み上げてくれるだろうの配役です。
録音時にも「いつもより多少ハッキリめに読んで欲しい」とお願いしてました。

BGMも相まってラストに相応しい「坂口くんが好きです。」になったと思います。

テーマ

YouTubeに公開した時にしたツイートなのです。
テーマ2つあるのですが、分かりますでしょうか。

1つ目は「恋愛」。
これはもうそのまんまですね。

2つ目は「時間」です。
こっちは明確に言語化しにくかったので分かりにくいかもです。

諸行無常ヤダ

突然ですが皆さん死にたくなくないですか??
渡辺は死にたくないです。

死ぬのの何が嫌って、死んだ後に自分がいなくなるのが嫌です。
死んで100年ぐらい経ったら渡辺が生きてたことを誰も知らないのが嫌です。
1000年でも2000年でも生きたいです。

時間が経って変わるものが嫌です。
今考えてる事と来年考えてる事が違うのも、去年やりたかった事と今年やりたい事が違うのも嫌です。

そういう「時間経つと変わるもの、嫌だな」感を込めたのですが、伝わりますでしょうか。

構成

前に挙げたツイートにもあるように、内容はともかく構成は渡辺っぽいと思います。
「渡辺っぽさ」は主に伏線の張り巡らせ方のつもりです。

まずお話を考える時の制約として、「坂口くんが好きです。」という一文を各シーンの最初と最後に入れるようにしようと考えました。

また語り手は全員「坂口くん」を好きな人達で、坂口くん本人は登場しません。

一応「坂口くん」は全シーン通して同一人物だというのをメインに考えています。
小学生から大人まで「坂口くん」が年を取りつつ、各時期に「坂口くん」のことが好きな人達が語り手ですね。

ただ各「坂口くん」が同姓の別人でも問題ないので、そうとも取れるようになっています。
同一時間軸の別の「坂口くん」の話だったり、語り手が同一人物だったりとも捉えられるようになっています。

あとシーン1~4が恋愛の起承転結に対応しています。
シーン1が付き合う前、シーン2が付き合ってから、シーン3が別れ話、シーン4が結婚です。

各シーン詳説

作者と作品の同一視しない!

あくまでフィクションなので、登場人物の語るものが必ずしも渡辺の価値観と一致してるわけではありません。
渡辺が書いた言葉ではありますが、各登場人物の言葉として書いたものです。

「興味のない人から向けられる好意ほど、気持ちの悪いものってないでしょう?」って台詞がめっちゃネットで拡散されて、「こういうことを思ってるんですか?」ってすごい言われちゃって。「いやいや、これは花火が言ったんだよ。メンゴが言ったんじゃないよ」っていう(笑)。

椎名もた×横槍メンゴ 苦しみの中で生まれた輝きが人を喜ばせるより

ほら、クズの本懐の横槍メンゴさんもそう言ってますし。

良い感じのソース見つけようと思ったのに見つからず、どこで見たのか忘れた。

ちなみにこの辺の演出意図みたいなのは関係者には事前に文書で共有しています。
文書ベースにしろ口頭にしろ、「こういう意図の作品」というのは今までも全作品で共有するようにしています。

シーン1

語り手は卒業式を控えた小学6年生です。

ここでは好意を「秘密を共有したいと思うこと」にしています。

手紙には教室で本を読んでる坂口くんに声を掛けた時に好きになったこととか、興味なさげな返答が心地良いのだとか、声が好きだとかが書いてあります。
それらが全て他の人には言ってない、坂口くんにだけ伝える「秘密」です。

時間部分は、未来への期待感と、将来が思った通りにはならないことです。
お花屋さんなり婦警さんなり、将来こうなれたら良いなが語られています。
もっと近い未来で言えば、小学生から中学生になったら突然勇気が出て手紙を渡せると期待しています。

彼女は将来お花屋さんにも婦警さんにもなれません。
坂口くんは卒業式を終えた後、中学に行く前に引っ越すのでラブレターは一生渡せません。

チャンスはいくらでもあったのに未来の自分頼りにしたせいで、期待した未来は二度と取り戻せません。

シーン2

語り手は夏休み中の高校1年生です。

坂口くんとは中学からの同級生です。
坂口くんは中学入学と同時に引っ越してきたという説明は、シーン1との関連です。

中1以来特に接点はありませんでしたが、たまたま同じ高校の同じクラスになったのを機に話すようになります。
坂口くんに特に思い入れはありませんが、知らない人だらけのクラスでみんなが様子を伺う中で男子と仲良く話せるのはアドバンテージになります。
また「彼氏の事を大好きな彼女」は見栄えが良く、同性異性問わず憧れるはずです。

恋人はアクセサリーです。私が彼女になったのではありません。私は私で、坂口くんが彼氏になったのです。


周りのクラスメイトも坂口くんも割とうんざりしてます。

坂口くんは初めて告白されたのでテンションが上がって付き合い始めますが、だんだんと「これじゃない感」を感じてきてこの後夏休み明けに別れます。

思春期の、幼児的万能感の名残りみたいなのが伝われば良いなと思います。
バイト帰りに坂口くんがいることも、週末にデートができることも、来年のクラス分けも、結婚も全部未確定です。
将来は現状がそのまま連続していくものではありません。

お花屋さんでバイトしてるのは、シーン1の小学生が何らかの折り合いを付けてお花屋さんになった可能性です。


第二パラグラフに出てくる、高校入学当時は別に興味なかったけど「今は大好き」というフレーズ、脚本書く時にかなり迷いました。

「今」と過去を対比したかったので入れたくはあったのですが、唐突過ぎる感じが…。
書いた時に、どのくらいの時間になるのかとか音として引っかかりがないかとか確認するために自分で音読したのですが、この部分はどう読んでも取って付けた感じになってしまいました。

録音する直前にも他の表現はないかと中村さんに相談したのですが、現状維持になりました。

結果、思ってたよりも自然で良かったです。
作中の4:28辺りなので良かったらもう一度聞いてみてください。

シーン3

語り手は2年前から1つ上の先輩と付き合っていた大学3年生です。

先輩は春から東京の企業に勤めます。
今は3月ぐらいで、 ここは東京から離れた地方都市なので、どんな形であれ関係は現状維持できません。

「明日引っ越す」と言われただけで「別れよう」の意だと汲み取れる程度に通じ合っていますが、明日の朝起きてお互い家を出てからはもう会いません。

この坂口くんはあっさりしているので、彼女が懸念している通り坂口くんの中では極限まで「無かったこと」になります。
とはいえ彼女も数年後には誰かと幸せな結婚をします。

でしょうかを繰り返しているのは自問自答です。
残るものの有無を気にしているのは、25ヶ月の間に特に形あるものを残してこなかったからです。
写真なりプレゼントなり…。
そういうものよりも一緒にいる事だとか、時間を共有することを重要視してきた結果です。

物的証拠が無いのなら、時間の経過による気持ちの変化を証拠付けるものは何もないのでしょうか。
変わっていくものだとしても、今の意思とは無関係な方向に変わっていくのは悲しいことではないでしょうか。

第五パラグラフの「将来が自分の予想通りに」はシーン1を意識しています。
「相手にどう思われるかなんか気にせず、自分のことだけを考えて」はシーン2を意識しています。

シーン4

語り手は小学6年生の娘がいる主婦です。

「坂口くん」と結婚しました。

親子に対する感じ方が変わるのはどのタイミングなんでしょうね。

例えば、遊園地で幼稚園ぐらいの子が父親と母親に手を繋がれているのを見かけたとします。
この時に「自分も小さい頃両親に連れられて遊園地に行ったなぁ」と思いますか?
それとも「自分も将来子供ができたら手を繋いで遊園地に行くのかなぁ」と思いますか?
自分が子供側なのか親側なのか、この認識が切り替わるタイミングはいつなのでしょうね。


このシーンで内容として伝えたいのはこれだけですね。
あとは最後に構成をまとめあげるためのギミックだけです。

シーン1の語り手も小学6年生、シーン4の娘も小学6年生です。
シーン1の語り手は算数のノートに手紙を挟んでいたのかも知れません。

買い物帰りにお花屋さんの前で見かけた、バイト帰りのカップルはシーン2の語り手かも知れません。
シーン4の娘もお花屋さんになりたいと言っていたので、シーン1の語り手かも知れません。

シーン4の語り手は小さい頃「かっこいい何か」になりたかったのをぼんやりと覚えていますが、何かは婦警さんかも知れません。

「伝えたい想いが伝えられなかったり」はシーン1、「一生一緒にいるのだと信じていた」はシーン2、「確かにあったものが静かに終わったり」はシーン3をそれぞれ表しています。


シーン3からシーン4を通して、前聞いた「結婚しないなら付き合う意味とは、なぜ一度好きになったのに別れるのか」への一つのアンサーのつもりです。

おわりに

今までの作品は純粋に「こうしたら面白くなるだろ」だけで作っていた中で、この作品はメッセージ性みたいなのを意識したので解説しようと思ったら書くことたくさんありました。

「坂口くんが好きです。」の本編は各シーン1000字程度で全体で約4000字なのですが、
制作裏話は約4200字、制作意図は約6600字になりました。

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